2022年6月2日 |
旧ソビエトロシアのショスタコーヴィチ(1906年〜1975年)は、社会主義リアリズ ムという、社会主義の理想を芸術において顕現するという考えによって創作を行っ た作曲家です。特に交響曲や室内楽曲など、いわゆるクラッシック音楽の王道を 行く分野において傑出した存在で、多くの名曲を残し、今でも演奏会の定番プログ ラムとして人気があります。歌声運動で壮大な「森の歌」を歌った方も多いのでは ないでしょうか。 さて、彼の曲はソビエト当局から、その作風が革命的でないとの指摘が幾度も あったとのことです。この反革命的な音楽というのが何とも面妖な言葉で、今風な 資本主義的音楽なのかなと思えば、前衛的音楽も無政府主義を想起するからい けないらしいなど対応に悩むところです。いまだによくわかりません。例えば彼の 代表作15曲の交響曲の中で当局の気に入った音楽と嫌忌した音楽があります が、今聞いてみるとそれほど変わらないようにも感じます。 ところでソビエトには、エイゼンシュタイン(1898年〜1948年)という映画監督の 「戦艦ポチョムキン」(1925年)という無声映画があります。ロシア革命前、食事の 不満から水兵達が待遇の改善を主張したところ、処刑されそうになったため、反 乱を起こして戦艦を乗っ取り、ロシア革命に参加するという壮大な実話をもとに作 られた名作です。彼の死後に劇伴音楽がなくて困り、当時ソビエト第一の作曲家 ショスタコーヴィチの交響曲をつぎはいで編集し、映画音楽として使用しました (1976年頃)。これを聞けば当局の好む革命的音楽が分かるかもしれないと思い 期待して見たところ、画面も曲も素晴らしいのですが、音楽が表す心と画面の持 つ力とが一致しないのです。 第二次世界大戦が間近に迫り物情蒼然たる中、エイゼンシュタインはもう一人 の大作曲家プロコフィエフ(1891年〜1953年)と一緒に史伝映画の名作アレクサ ンドルネフスキー(1938年)を製作します。これは完全に映画と音楽が同期した画 期的な作品として有名ですが、「戦艦ポチョムキン」の持つ真摯な力強さには僅か に及ばなかったように感じます。後に映画で使用された音楽を、プロコフィエフが 編集してオラトリオを作曲しましたが、これは畢生の名曲となりました。 作曲家と違い、総合芸術の映画製作では、政治的制限は更に厳しかったので すが、ソビエト映画には健康的な抒情性があって、現在では他に求められないも のです。 |
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